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ただならぬ発想を生むヒント―『ひみつのしつもん』岸本佐知子

投稿日:2020年2月14日

 

ビジネスにおいては日々何かしらアイデアを求められますよね。それもどこかで見たことあるような、誰でも思いつくようなものではないやつを。

今回はそんな、ひととは違う発想を生みだすための参考になるかもしれない(もしくは思いっきりならないかもしれない)本を紹介します。

 

キテレツ&ブラックなユーモアあふれるエッセイ

『ひみつのしつもん』(岸本佐知子著/筑摩書房)https://www.chikumashobo.co.jp/special/kishimoto_sachiko/

 

その本が『ひみつのしつもん』。著者は英米文学の翻訳家で、これまで数々の翻訳書を世に送り出し、2019年には『掃除婦のための手引書 ルシア・ベルリン作品集』(ルシア・ベルリン著/講談社)が話題に。エッセイストとしても人気が高く、本書は4作目のエッセイ集にあたります。

著者のエッセイの大きな魅力が、大抵のひとならスルーしてしまう日常の些細な違和感へのこだわりと、そこからふくらむ、ときにキテレツで、ときにブラックなユーモアあふれる発想です。

 

「ぬ」的存在

たとえば、五十音の「ぬ」。

おそらく誰もが一度は、その独特の音とフォルムに違和感を覚えたことがあるはず。
でもほとんどの方が、何ごともなかったかのようにやり過ごしてしまっているのではないでしょうか。

ところが著者は違います。その違和感の正体を突きつめ、「『ぬ』は地球外生命体ではないか?」という仮説を導きだすまでにいたるのです。

 

だいいち「ぬ」という形からして何となく怪しい。見れば見るほど、エイリアンが息を殺して体を丸め、「め」に擬態している姿に思えてくる。
「ぬ」の狙いはいったい何なのか。
やはり世界征服だろうか。
(p.150)

 

ここではわかりやすい例として「ぬ」を挙げましたが、本書を読めば同様の存在——「ぬ」的存在――は、私たちが気づいていないだけで、身の回りにまだまだたくさん潜んでいることに気づかされます。

たとえば、「海老蔵」のような食べ物の名前が入った名前。あるいは、宇宙飛行士の星出さんのような“名が体を表しすぎている”名前だってそうです。

 

そういえば、前々著『ねにもつタイプ』には、「もしも意味を知らずに『赤ん坊』や『美人局』、『好々爺』などの言葉と出会ったら、どんなものを想像するだろう?」というささやかな疑問が、いつのまにか東京都心を舞台とした地球防衛軍VS巨大赤ん坊の決戦にまでスケールアップしてゆくエッセイがおさめられていました。

 

宇宙が肌に触れた

 

夜だ。いくらなんでも暗すぎると思う。
昼間はあんなに明るかったのに、ちょっと落差が極端すぎやしないか。
(p.50)

もちろん「ぬ」的存在は、文字や言葉だけではありません。

 

部屋に見覚えのないネジが転がっていれば、「自分は機械だったのか?」疑惑がにわかに浮上する。

とあるスパイスの香りが腋臭(わきが)に似ていれば、その腋の主である羊飼いの息子、トルコあたりの山で暮らす(架空の)少年アリの生活に思いを馳せる。

古びたアパートの前にぽつねんと立つ色褪せた郵便ポスト、なんていう格好の「ぬ」的存在も登場します。といっても著者は、そのポストをつかって未来の自分と文通をはじめたせいで、やがて人類を救うために立ち上がるはめになる自分を想像し、「そうなったら面倒だ」とこぼすのですが。

 

個人的に強烈に印象に残っているのは、上でも少し引用した「夜が暗すぎる」というエピソードです。

とりわけ、夜の暗さはすなわち宇宙の暗さ、夜道を歩いている自分は宇宙とじかに肌を接している……と話が宇宙におよぶあたり、読みながら日常の遠近感が一気に崩壊してゆく感覚におそわれ、思わず「ひっ」と声を上げそうになりました。

 

「便所でバスを運転してる」

ところで、このように次から次へと奇抜な発想を生みだす著者は、ふだんどのような本を読んでいるのでしょうか。

愛読書かどうかはわかりませんが、本書で(いるかもしれない監視にたいして)仕事をしている振りをするために読む本のひとつとして紹介されているのが、『最新アメリカ学生スラング辞典』。

じっさいにアメリカの学生たちがキャンパスで使っていたスラング(俗語)を集めた辞書で、次のようなユニークな例文が載っているそうです。

 

drives the bus(バスを運転する)= 吐く。(例文)「フランクどこ行った?」「飲みすぎて便所でバスを運転してる」。
(p.174)

 

やはり発想がおもしろいひとは、本のチョイスもひと味違いますね。

どうです、あなたも身の回りの「ぬ」的存在を探してみませんか? 何かとんでもない発想のヒントをもらえるかもしれません。

 

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瀬島 拓也(フリーライター)

新聞社や書店メディアを中心に、本にまつわる書き仕事を展開中。よく読むのは日本と海外の小説・詩・エッセイ。
広告代理店勤務時代の経験を生かし、広告コピーやプレスリリース、マーケティング系記事も執筆。

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