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マーケティングと心理学のカンケイって?◆四元正弘の『心』を動かすマーケティング談義 第1回◆

投稿日:2019年7月5日 更新日:

マーケティングと心理学のカンケイって?顧客ニーズってどうやったらわかるの?社会情報大学院大学の四元正弘教授とマーケティングや消費者心理について考える企画がスタート!
インタビュー形式で色々な疑問を四元教授に答えていただきました。

 

公開予定

第1回
マーケティングと心理学のカンケイって?~人が商品を選ぶ心理を知る

●第2回
マーケティングのゴールって?~その顧客設定、ほんとに大丈夫?

●第3回
『共感マーケティング』のススメ。~消費者の心に火をつける「物語」の作り方

四元正弘プロフィール

1960年神奈川県生まれ。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。1987年に電通に入社。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表であり、2019年4月から社会情報大学大学院で教授も務めている。

詳しくはコチラ

 

 

第1回「マーケティングと心理学のカンケイって?~人が商品を選ぶ心理とは」

学問としてのマーケティング、心理学

―四元さんは、電通時代はもちろん、現在も大学の講義やさまざまな講演を通してマーケティング・コミュニケーションについて教えられていますよね。そもそも、マーケティングや消費者心理研究のキャリアはいつからスタートしたのでしょうか。

実は僕、大学は工学部出身なんです。最初に就職した会社ではエンジニアとして技術開発をしていました。なので、バックボーンは自然科学なんですよね。
その後、縁あって電通へ入社し、そのときはじめてマーケティングや消費者心理というものを考えはじめました。

 

―なかなか異色ですね。

そうですね。初めは“違和感”がありました。これまで自然科学をやってきたのに対して、マーケティングは社会科学ですよね。そのときに「これは科学なのか?」「科学っていっていいのか?」と葛藤がありました。

 

―「これって科学なのか?」と思う1番の理由はなんですか?

「再現性が低い」ということですね。心理学も実験はされていますが、同じ結果が出るという意味での「再現性がある」ことは、どうやら3,4割しかないと聞いたことがあります。
あとは、解釈が担当者・当事者の恣意性にすごく寄るところがあって、そこに最初は違和感を覚えました。

自然科学には理論があって、その理論に沿った現実があるじゃないですか。例えば、アインシュタインの相対性理論は、ブラックホールがあるはずだという理論が先にあって、当時では観測できなかったものが、技術が進歩して観測できるようになって「あぁほんとにあったんだ」となった。

それに対して、社会科学ってそこまで厳密な理論じゃないというか。ただ、「現実を解釈するには十分有効な理論」だとは思っています。

 

―「現実を解釈するには十分」というのはどういうことでしょうか。

マーケティングや心理学って、知識だけを学んで現実に落とそうとすることは難しいんです。しかし、逆に現実に身を置いていて、現実の課題を「どう解釈・理解すればいいだろうか」というときには、十分役立つものだと思います。

例えば、松下幸之助とか天才的な経営者は、心理学を知らなくても人の心理をなんとなく理解していて、行動できるんですよ。ただ、そこまで天才じゃなければ、心理学というのはマーケティングをやる人は知っておく方が良いと思います。それをもとに消費者の心の動きを知ることが重要です。

なので、僕は心理学という学問をバックボーンとして持っているわけではないけれど、電通に入社してから本を読んだり、大学の社会人向けセミナーで心理学の講座をとったりして、心理学に近づいていきました。また、電通にも心理学をバックボーンにもつ人が多く在籍していました。そういう人たちと仕事をする上で自然に知識も増えてきました。

 

「景気」には、どうして「気」の漢字が使われるのか

―そうやって、「違和感」を克服されてきたんですね。

考え方として、ひとつ追い風になったのは、ドラッガーの存在です。
彼が1959年に日本に来たことがあります。そのときの来日の理由は、渋沢栄一など日本の経営者について、日本に100年企業のような長く続く企業が多い理由についての研究でした。

そのときドラッガーは、「景気」という言葉に非常に興味を持ったそうです。「景気」という言葉は、経済用語なのに、「気持ち」の「気」という漢字が使われていますよね。それに気づいたドラッガーは、結局経済を動かしているのは「人の気持ち」なんだということを悟ったそうです。つまり、経済の中心は精神活動であるという結論に辿りついた。

マーケティングには色々な理論がありますけど、結局は「人の気持ち」が一番根っこにあり、それをきちんと理解しないといけない、そういうことを僕はこの話を知って改めて感じました。

 

―ただ、「人の気持ち」は見えないですし、すぐに移り変わりますよね。どんなに心理学の知識をもっていても、必ず知識どおりにはならないのでは?

そうですね、「気持ち」というのは、往々にしてその人自身も気が付いていない「無意識」の中にあることも多い。そして、「無意識」というのは心理学でもそこまでメインストリームではないんです。
心理学というよりも行動経済学に近いですかね。なので、僕もだんだんそちらの方に注目するようになっていきました。

 

消費者を理解する~「ヒューリスティック」という考え方~

―行動経済学のどんな点に注目しているんですか?

僕が近年注目しているのは、「ヒューリスティック(※)」という考え方ですね。「ヒューリスティック」というのは、課題に対して、限りなく答えに近い答えを経験則から効率よく導き出す思考法のことです。つまり、問題を簡単に解決するために、意思決定のプロセスを単純化することです。

昔のマーケティング界隈では、人間はもっと合理的に判断を下すものだと思われていました。
例えばパソコンを買うとき。数多あるパソコンそれぞれの価値を判断しますよね。判断要素としては、スピード、価格、バッテリーの持ちなどですね。そうすると、それぞれの要素で、このパソコンはどのくらいの点数か10点満点で考え、最終的に100点中何点か定める。そして、AとBのパソコンを比較して点数が高いほうに決める。こんな感じです。

 

 

―そこまで考える人っているんですかね…。

そう、正直ここまで完全に合理的に考える人はいないです。ただ、このような合理的判断について研究していた時代が長かったのは事実です。

では、僕たちは何でも全部でたらめに判断しているのか、といわれると、そういうわけではない。そこには本人も気づいていない「無意識」が働いているんですね。

ここで「ヒューリスティック」という考え方がでてきます。パソコンが10個あったらすべてを合理的に比較するのではなくて、無意識に2つくらいまでに絞って、そこからある程度合理的なモデルに近い状態で考えます。このような意思決定のプロセスを踏むことで、10個全ての商品を検討するよりも、決定までのスピードは速くなります。もちろん間違うこともあるけれど、だいたい満足できる決定にたどり着く。これが、ヒューリスティックです。

なぜ、その2つにしたのかの無意識・直感的に判断できた理由は、例えば、知人にすすめられて知っていたメーカーだからなど自分の過去の経験に基づいたものや、軽さを重視しているから性能がよくても重いパソコンは嫌だという自分の価値観によるものだったりします。そういう判断をとても素早く行っているんです。

昔に比べて情報量や選択肢が増えているけれど、僕たちは、それを解決できる合理的な処理能力を持っていません。なので、結局このようなヒューリスティックのような思考法に頼っています。

マーケティングでも商品企画でも、消費者はすべて合理的に判断するのではなく、無意識のうちに非合理的に物事を判断しているということを理解するのが重要です。

こんな風に「人の気持ち」を社会心理学や行動経済学から理解することはもちろん、実際に具体的なマーケティングの課題解決に利用する、そこまでできてようやく学問の知識が現実に役立つようになる、意味を持つと思います。

 

※ヒューリスティック
「効率よく情報を処理するために単純化された意思決定プロセス」のこと。主に3つの種類がある。
(1) 利用可能性ヒューリスティック
馴染みのあるもの、記憶に残りやすいものは頻度が高いと判断する。
例>CMの特徴的なジングルの影響で、そのCMがたくさん放映されているような印象をもつ。

(2)代表性ヒューリスティック
あるカテゴリーの典型的な特徴に類似しているかで判断する。
例>相撲の試合で勝つのは、細身の人よりもふくよかな人だと判断する。(本当は細身の人のほうが実力的に上だとしても、力士の典型的な特徴に影響されている)

(3)固着性ヒューリスティック
アンカリンク効果のような、先に提示された数字が基準となってそのあとの判断に影響を受けること。アンカーとなるのは数字だけでなく、価値観や信念、自分の好きなものなど、観念もある。

参考:阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA

 

今回は、マーケティングや心理学の歴史をたどりながら、人が商品を選ぶときのプロセス「ヒューリスティック」について解説いただきました。
第2回「マーケティングのゴールって?~その顧客設定、ほんとに大丈夫?」はコチラ↓

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宮田 あゆみ(beehave 編集部)

beehave編集部/Webマーケター、ディレクター
2018年に株式会社インフォデックスに入社。 beehaveの運用や自社事業のマーケティングを担当。

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