四元正弘コラム

物語的フレームで消費者を巻き込む~自分語りの愚を犯してはいないか?~

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今回は、マーケティングにおける物語的フレーミングの活用についてお話します。ぜひ普段のマーケティング活動にお役立てください。

では、唐突ですが、まずは次の実話に基づく小噺を読んで、クイズに挑戦してみてください。

 

盲目の物乞いと伝説の広告マン

昔々のニューヨーク。冬のピークを過ぎた3月上旬の頃に、伝説の広告マン(A)が、盲目の物乞い(B)の前を通りかかったときの話です。
物乞いの前には金銭を入れてもらう缶と、「私は見ることができません」という文言が書かれた板が無造作に置かれていました。しかし、街行く人の誰も足を止めません。
不憫に思ったA氏は、物乞いに話しかけます。

A: 目が見えないとはお気の毒に。実は私は魔法使いなのだよ。
B:だんな、目が見えないからって、悪いご冗談を・・・。でももしも本当なら、見えるようにしてくださいませ。
A:すまんが魔法使いにも専門分野があって、私は治療が得意ではないのだよ。その代わりに、君がもっとお金を稼げるような魔法をかけてあげよう。

そして彼はデタラメな呪文を唱えながら、「私は見ることができません」の前段に10文字くらいの短文を音も立てずにサッと書き足しました。
そしてその直後から、小銭が缶に投げ込まれる響きが物乞いの耳に届き続けた、とさ。めでたし、めでたし・・・

さぁ、ここで問題。


私は見ることができません」の前段に書き足された10文字くらいの短文とは何?

とは言え、すぐには答えるのは少々難しいので、以下のヒントも参考にしてください。

そもそも、「私は見ることができません」の文言に誰もが無関心だった理由はなにか?それは、このメッセージが物乞いの「自分語り」に過ぎず、街行く人にとって関係が無いことだから。
ということは、書き足された短文は、通りすがりの人を巻き込むようなメッセージがあったということ。元の自分語りのメッセージに付け加えることで、心理的に通りすがりの人も無関心ではいれられなくなるような10文字の短文とは何だろうか?新たな物語を創出してみるのだ。

では、答えを。

実際の短文の答えはこちら。

もうすぐ春が来ます。しかし

賢明な読者の皆様はもうお判りのことだろう。
前述したように、当初の「私は見ることができません」は通りすがりの人には関係のない、物乞いの単なる自分語りに過ぎない。
それに対して追加された「もうすぐ春が来ます」というメッセージは、春を待ち遠しく思っている三月の街を行きかう人々にストレートに突き刺さる。そこで多くの人は「もうすぐ花見の季節か、楽しみだなぁ」などとウキウキと想像した瞬間に、「でもこの盲目の物乞いは綺麗な花を鑑賞することもできないのか・・。なんて気の毒に」と彼の哀愁をまるで自分のことのように感じてしまい、小銭を投じざるを得なくなるわけだ。

フレーミング理論を使って物語をつくる

さて、心理学では「フレーミング理論」という有名な考え方がある。

ここでいうフレーミングとは枠(frame)の動詞形で、実質的に同じ内容であっても物事の見方によって違う印象を受ける心理効果を意味する。
一般的な応用事例として「ポジティブ表現の方が受け入れられやすい」という心理ルールがよく知られており、例えば同じ手術でも「成功する確率は7割」と「成功しない確率は3割」で紹介した場合に、手術を受ける率は前者、すなわちポジティブな表現の方が圧倒的に高くなることが知られている。
また、ほぼすべての広告物は笑顔や元気になれるメッセージで溢れているが、これこそポジティブのマーケティング的価値を重視している何よりの証だろう。

そして今回紹介した「もうすぐ春が来ます」というメッセージも強いフレーミング効果を有しており、盲目の悲哀を一層強く訴求することに成功している。
そこで私からの提案だが、ポジティブとは別タイプのフレーミング効果として、「もうすぐ春が来ます」のようにターゲット層を巻き込む物語的な枠(フレーム)もぜひ活用していきたい。

身近なところでは、例えばプレゼンの第一声に関して、「今日は〇〇の話をします」と「今日は〇〇の話を知って役立てていただきます」の違いも基本的に同じこと。それぞれの主役が「前者:プレゼンター」なのに対して、「後者:聞き手」になっているために後者の方が聞き手を引き込む力が強く、プレゼンに対する反応が良くなるのだ。

 

情報過多のユーザーを引き留めるものは、「物語」

現在ではマスメディアに加えてネット経由でも膨大な情報が消費者に発信されており、消費者が受け取っている情報量は、無意識も含めると人類史上最多であることは疑いようがない。
しかしその反作用として、情報一つひとつの存在感は極限まで薄まり、スルーされる比率も最高だろう。

その現実を前にして、マーケティング的に避けるべきなのが「単純な自分語り」。これでは、私には関係なさそうと思われて一巻の終わり。
ところが残念なことに、大半のマーケティング・コミュニケーションは「自分語り」で終始しているのが現実だ。実際の広告を御自身の目で判断されるが良い。単純な自分語りがいかに多いことか!

Webマーケティングももちろん例外ではない。

もちろん最終的に自社商品を売りたいのだから、「自分語り」は避けて通れない。しかし、そこで留意してほしいのが、「同じ内容なのにフレームの設定次第で反応が全く異なる」というフレーミング理論だ。
「もうすぐ春が来ます」のように、ターゲット層を巻き揉む物語をフレームとして援用することで、まずは強い反応を喚起したのちに、はじめて「自分語り」をすれば良い。

このようにショートメッセージ1つで消費者への説得力が全く違ってくるから、マーケティングは面白いし、そして恐ろしい。文言の重みが大きいwebマーケティングではなおさらであろう。

 

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四元 正弘(四元マーケティングデザイン研究室)

四元マーケティングデザイン研究室 代表
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。 1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。
2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。

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