Pick Up! 書籍紹介コラム

さようなら、コンプレックス商法ー『美容は自尊心の筋トレ』長田杏奈

投稿日:2020年1月21日

 

「コンプレックス商法って好きですか?」と聞かれて、首を縦にふる人は少ないと思う。

にもかかわらず世の中は、程度の差こそあれ、見ず知らずの他人の不安や劣等感をあおりたてる広告・コンテンツであふれている。とくに化粧品やエステなど、美容系の。

今回は、そんな状況に対して痛快に「NO!」を叩きつける話題の本を紹介したい。

 

「『見た目が9割』だったら警察いらない」

※ele-king books(http://www.ele-king.net/books/006919/)

 

『美容は自尊心の筋トレ(ele-king books)』 (長田杏奈/Pヴァイン)

著者は女性誌やWebで活躍中の美容ライター。『美容は自尊心の筋トレ』は、美容をキレイのためでも、若返りのためでも、モテのためでもなく、“健全な自尊心を育むためのもの”と定義し、これからの時代の新しい美容のカタチを提唱する一冊である。

ちなみに、著者のいう自尊心とは、「真の意味で自分を大切にすること、極端に言うと、美しさや好かれたり役立ったりすることに関係なく、『無条件に生きていていい』と腹の底から許して信じられる気持ち」(p.6)のこと。

そうした誰もがもつべき尊い感情を損なわせ、ルッキズム(見た目差別)やエイジズム(年齢差別)、モテ至上主義を無意識にすり込む美容広告やメディアに、キレ味鋭い文章で切り込んでゆくのだ。

若さ=価値という前提を「ロリロリ文化」と一蹴する。
見た目にかんする脅しは「『見た目が9割』だったら警察いらない」と斬り捨てる。
モテ情報に右往左往する人たちに「エビデンスなきモテに振り回されるな」と注意をうながしつつ、女性に旧来のジェンダーロールを押しつけてくる広告を「ママ=時短って決めつけるな」と一刀両断にする。

もちろん、自身もおなじ業界にいる以上、無傷ではいられない。無意識に放った言葉がブーメランのごとく返ってくることもある。
しかし逃げない。本書での著者の姿勢は痛快なだけでなく、一貫して誠実だ。さらに悩める読者を、次のように力強い言葉で勇気づけてもくれる。

美容はコンプレックスを解消するためのものではない。そもそも人と違うところはその人のチャームポイント。
女性は全員美人で、見た目の優劣など存在しない。この世にはただ多様な美しさがあるだけだから――。

ともすると、著者のこのような言葉を、それこそキレイごととして片づける人もいるかもしれない。しかし本書を読めば、それは著者ひとりのものでも、ただの理想論でもないことがわかる。

そう、いま時代は変わりつつあるのだ。

 

コンプレックス産業から「それ、コンプレックスじゃなくね?」産業へ

 

その変化を象徴する例として挙げられているのが、アメリカのシンガー、リアーナが手がけるランジェリーブランド「Savage x Fenty」による2018年9月のランウェイショーと、同じく彼女がプロデュースするメイクアップブランド『Fenty Beauty by Rihanna』である。

「Savage x Fenty」のショーを未見の方はぜひ上の動画を観てほしい。年齢も体型も民族もさまざまなモデルたち(妊婦も2人いる)のパワフルなダンスは、画一的な美の基準やヒエラルキーの存在自体を一瞬で過去のものにしてしまう圧倒的な迫力に満ちているから。

また、一人ひとりの誇りに満ちた表情からは、美しさはその人自身の内側からあふれ出てくるものであって、不安に駆られて手に入れるものではないということをあらためて認識させられもするだろう。

一方の『Fenty Beauty by Rihanna』は、2017年9月、一挙に40色のファンデーションを発売して注目を集めた。

 

https://www.instagram.com/p/BYxhJDFlyBQ/ (※2019年12月時点では50色)

 

同ブランドのコンセプトは「すべての肌色、個性、考え方、文化、そして血筋」を持つ人々のための化粧品づくり。

当然ながら、ホームページにも、コンプレックスを刺激する言葉や、「若くみられたいでしょ」「モテたいでしょ」といった忖度(そんたく)は微塵もみられない。

むしろ、そうした売り方を断固否定するかのように、「メイクはあなたが楽しむためのものであって、プレッシャーを感じたり、制服のように考えたりすべきではない」というリアーナのメッセージが記されている。

米『タイム』誌で「2017年 最も優れた25の発明」に選ばれたこのファンデーションは、大ヒットしただけでなく、世界の美容業界に影響をあたえ、日本の化粧品ブランドのファンデーションのカラーバリエーションもまたたくまに激増したという。

そして、これらの美容の新しい波を目の当たりにした著者は、次のように新時代の到来を宣言する。

「長らく美容はコンプレックス産業とされてきた、けれどこれからは多様な美を発見して謳歌し、コンプレックスいけてるね産業、それコンプレックスじゃなくね?産業に切り替わる時代だ」(p.123)

コンプレックスを訴求する広告やコンテンツは、一般に反響が良いといわれてきた。

とはいえ、それはあくまでこれまでの話。美容にかぎらず、いたるところで多様性が叫ばれている現在、売り手側が目先のクリック率やページビューに一喜一憂しているあいだに、新しい考え方や価値観を知った消費者に見捨てられないともかぎらない。

著者も書いているように、「結局は楽しくて自由で誰も傷つけない方が勝つ」のだから。

 

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瀬島 拓也(フリーライター)

新聞社や書店メディアを中心に、本にまつわる書き仕事を展開中。よく読むのは日本と海外の小説・詩・エッセイ。
広告代理店勤務時代の経験を生かし、広告コピーやプレスリリース、マーケティング系記事も執筆。

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