2019年の流行語大賞に「タピる」がノミネートされ、たべみる主催の「今年の一皿」でもタピオカに決まりました。
街中には専門店で溢れかえり、コーヒーショップやファミリーレストランなどの異業種でもタピオカドリンクが販売されるなど、本当に今年は「タピオカの年」だったと言えると思います。
そんなタピオカ。
以前にも社会的ブームを巻き起こしていたことは若年層を中心に実は知られていないもの。
はじめのブームは1992年の平成のはじまりの頃で、二度目が2008年と言われています。そして三度目が平成最後の2019年でした。平成という時代はタピオカで始まってタピオカで終わったことになります。
「ブームは流転する」というけれど、なぜこれほどまでにタピオカは女性たちの心を掴めたのか‥?
その視点でタピオカブームを眺めてみたいと思います。
「物珍しさ」で脚光を浴びた第一次タピオカブーム
前年にバブルが崩壊したものの、世の中の空気がすぐに入れ替わるわけでもなくバブルの余韻がまだ残っている1992年に、タピオカは話題になりました。
この時のタピオカは、ココナッツミルクに入った白い粒のタピオカとしてブームになっています。その理由を考えてみたいと思います。
タピオカを日本の上陸には、実は女性のアジア旅行者数の増加も関係しています。
1992年の女性雇用者は1963万人、雇用者全体比率だと40.4%に推移していて女性の割合は比較的欧米並みの水準になっており、気軽な価格と日数で行けるアジア旅行が一般化し始めていました。タイや台湾などの現地で食べたタピオカ体験者が、帰国後もアジア料理ファンとなることで店が増え、デザートとしてタピオカとの接点が増えたと考えることができそうです。
「ツブツブ食感のタピオカっておいしい!」「蛙の卵みたいなヴィジュアルで気持ち悪いけど、美味しい!」などの反応が起こり、ブームが醸成されていくことになりました。
第一次ブームは「見たことのない・聞いたことのない謎の食材&新食感」として、女性たちの心を掴んだのです。
黒いタピオカドリンクとして流行した第二次タピオカブーム。
第二のブームは2008年、第一次と第三次と比べると小粒なブームでした。
きっかけは、アジアを拠点にしていたQuicklyやeasywayが秋葉原や丸の内に出店し、行列も断続的に発生していました。
このブームの時には、タピオカは白粒から黒粒へ変化して、タピオカのサイズも若干大きくなって食感もつぶつぶからモチモチにアップデートされています。
この時代のタピオカドリンクは「トッピングとしてのタピオカ」という位置づけが強くて、カフェオレや完全発酵の紅茶を使ったミルクティーなどがメインでした。
このブームの時は「いつものミルクティー+黒粒のタピオカ」として、比較的大きなストローで大きな黒粒を吸う楽しさから女性の心を掴みました。
第三次ブームへのきっかけを作ったのは「春水堂」
今のタピオカブームの源流をたどると、台湾の人気店「春水堂」につながります。
春水堂とは、台湾のお店で「タピオカミルクティー」発祥の店とされていて、代官山に重厚感のある店舗を2013年にオープンさせている。これが大ヒットし、オープン当初はつねに長蛇の列となっていました。春水堂は、これまでの上陸店とは少し違っていました。
完全発酵の紅茶を使用したミルクティーやカフェオレではなく、高級台湾茶を使用。イートインの場合はグラスを使用していて、高級路線を貫いています。当初のブランド戦略から「競合をスターバックス」とおいていたことも有名ですね。
【春水堂以前】
・プロダクト:紅茶(完全発酵茶)のミルクティーが大半
・拠点:秋葉原
・ポジション:手軽な飲み物≒フードコートの世界観
・価格:350円
【春水堂以後】
・プロダクト:台湾茶(半発酵茶)
・拠点:代官山
・ポジション:ちょっと気分が上がるドリンク/ライバル
・価格:450円
「どこでも飲めるミルクティー×もちもち食感のタピオカ」から、
「珍しい台湾茶のミルクティー×もちもち食感のタピオカ」ということで、ドリンク自体へのニュース性も急上昇。第一次はスイーツのトッピングとして、第二次はカジュアルなフードコートで飲むようなドリンクとして流行ったタピオカは、春水堂との出合いによって、第三次に通じる高価格帯ドリンクにポジショニング変更がされたのかもしれません。
この春水堂が広げたタピオカドリンクの日本市場を、ゴンチャやジアレイなどの資本力のあるブランドが日本に上陸し、タピオカドリンクを同時多発的に露出させ、市場を拡大していきました。ターゲットは「スタバ好きのコーヒー嫌い層」と整理し、出店、商品、コミュニケーション戦略を尖らせていくことで、タピオカドリンクの熱狂的ファン層を創出することに成功していきます。
タピオカは「行列による宣伝」を現代にアップデートした
タピオカに限らず、チョコミントでもかき氷でも、熱狂的なファンがブームの核となっていくのは変わりませんが、タピオカの場合はその熱狂者が雪だるま構造で拡大していったのが面白いです。ましてや食品ブームが短命化する時代において、タピオカは3年ぐらいのスパンでブームが持続していた要因は、出店や風味などの「微調整の最適化」では突破できないレベル感なのかもしれません。
タピオカの熱狂的ファンが増大しブームが持続している背景として長期化した要因として考えているのは「行列プロモーションの成功」だと考えています。
旧来から存在するマーケティング手法の「行列」ですが、SNSが発達した現代はより価値が高くなっていると私は考えています。行列ほど、最良の宣伝手法はないでしょう。
何事もスマートに合理的に購買できる時代において、行列は異常な光景でこれまでよりずっと意味をもつ。「なんでも手に入る時代に、並んでまで買いたいものってなに?」という希少性によって、プロダクト自体の価値をもっと高めることに貢献できるのかもしれません。
「タピオカ」は、現代の消費行動を知る最良のサンプルである
タピオカは、「ブーム短命化」の流れにおいて突出したブームの成功事例と言えるでしょう。
モノを買わない今の時代に「心を動かす」文脈作りを知るには良いサンプルです。
どんなに美味しくても、ターゲットの文脈にマッチしないと購買は生まれません。「タピオカを飲む」ことから獲得できる価値の再整理、届ける場所、価格、メッセージなどの最適化によって、この大きなトレンドが誕生したのではないでしょうか。
同時にここからが勝負とも言えます。新規参入しすぎたマーケットにおいてどのように生き残るのか。2020年も「タピオカ」は継続して、注目していこうと思います。