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田舎はガンになりにくい?見聞きしたことを都合よく解釈する確証バイアスとは

投稿日:2020年1月23日


※この記事は、『東大教授が教えるヤバいマーケティング』の内容を著者本人監修の元一部編集したものです。

突然ですが、あなたは以下の文章を読んでどのように思いますか?

「日本にある1724の市町村で大腸ガンの出現率を調べたところ、出現率が低い市町村の大半は人口密度の低い田舎でした」

これは事実ですが、あなたはこの統計結果から「田舎は水や空気がキレイで新鮮な食材が手に入り、ストレスも少ないからガンになりにくいのだろう」と結論づけたりしませんか?

次の統計結果も真実です。

「日本にある1724の市町村で胃ガンの出現率を調べたところ、出現率が高い市町村の大半は人口密度の低い田舎でした」

すると今度は「田舎は飲酒率や喫煙率が高くて、質の高い医療を受けにくいからガンにかかりやすいのだろう」と思ったりしませんか?

私たちは、出現率の高低を田舎のもっともらしい要因で説明してしまいがちですが、実は本当の理由は、田舎の人口が少ないからなのです。

田舎はサンプル数(=人口)が少ないため、実際の出現率が他の市町村と同じであっても、その統計値は極端に高かったり低かったりすることが起きやすいのです。まだ納得がいきませんよね。説明を続けましょう。

 

 

1724の市町村の中には189の村が含まれており、人口がもっとも少ない村はたかだか20人です。
もし実際のガンの出現率が10%だった場合、この村で、その統計値が0%(つまりガン患者が20人中0人)になる確率は12・2%もあります。しかし0%になる確率は、100人の村では0・0027%、1000人の村では限りなくゼロに近くなります。

同様に、実際のガンの出現率が10%だった場合、人口20人の村でその統計値が20%(つまりガン患者は20人中4人)以上になる確率は13・3%もありますが、人口が100人の村では0・2%、1000人の村ではほぼゼロになります。

このようにサンプル数が少ないと、単なる偶然によって極端な結果が出やすくなるのです。そのようなデータに基づいて、主観的に法則性を見出してしまうことは「少数の法則」と呼ばれ、トゥバースキーとカーネマンによって1971年に提唱されました。

 


よくテレビ番組で3人にある食品を食べ続けてもらったら、全員減量に成功したとか、CMで10人がサプリメントを飲んだらその内7割の人の血圧が下がったなどは、いずれも統計的に効果があるとはいえません。

「最近の若者は……」「いまどきの女子高生は……」「おばさんってやっぱり……」などと、たまたま見聞きした数人から少数の法則で判断していませんか? これは利用可能性ヒューリスティック(※)や代表性ヒューリスティック(※)とも関連しています。

 

※ヒューリスティック
「効率よく情報を処理するために単純化された意思決定プロセス」のこと。主に3つの種類がある。
(1) 利用可能性ヒューリスティック
馴染みのあるもの、記憶に残りやすいものは頻度が高いと判断する。
例>CMの特徴的なジングルの影響で、そのCMがたくさん放映されているような印象をもつ。

(2)代表性ヒューリスティック
あるカテゴリーの典型的な特徴に類似しているかで判断する。
例>相撲の試合で勝つのは、細身の人よりもふくよかな人だと判断する。(本当は細身の人のほうが実力的に上だとしても、力士の典型的な特徴に影響されている)

(3)固着性ヒューリスティック
アンカリンク効果のような、先に提示された数字が基準となってそのあとの判断に影響を受けること。アンカーとなるのは数字だけでなく、価値観や信念、自分の好きなものなど、観念もある。

参考:阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA

 

都合よく魅力的に感じてしまう限定商品のヒミツ

マクドナルドの秋季限定バーガー、シチズンの100周年記念モデル1500本限定の腕時計、北海道でしか買えない「白い恋人」、九州限定の明太子フレーバー「柿の種」、ダイソンのジャパネット限定モデル――。

これらの商品は、なぜか興味をそそられますし、何かと話題になったりしますよね。
販売する期間、数量、地域、チャネルなどを企業が限定して販売する商品のことを限定商品と呼びます。

ビールの例を考えてみても、季節限定(秋味、冬物語)、限定醸造(サッポロ 銀座ライオンビヤホールスペシャル10万ケース)、地域限定(全国9工場でそれぞれ生産されたキリンの一番搾り)、ファミリーマート限定(アサヒ ザ・ダブル)、などさまざまな限定商品であふれています。

 

 

限定商品は、売り手が意図的に商品を自由に入手しにくい状態で販売することによって、話題性や希少性を狙ったものです。

消費者研究では、同一の商品でも、制限を課すことによってその評価(知覚品質)が高まり、売上が上がることがさまざまな実験で確認されています。

ここでは二つの心理的メカニズムが作用しています。

一つは、人が所有していない、あるいは人と被らないというスノッブ効果です。市場における希少性が、その価値(等価価格)を上げているのです。
もう一つは、商品が入手困難なことから、心理学ではリアクタンス効果と呼ばれる「失われた自由を回復しようとする、または失われそうな自由を確保しようとする動機」が働くからです。

同じ限定ビールでも、手近な店で簡単に手に入るときより、探し回ってやっと買えたときの方が美味しく感じませんか? 取引効用理論(※)のフレームワークでは、希少性は獲得効用を増加させ、リアクタンス効果は取引効用を増加させていると解釈できます。

ただしこれらの学術研究は単発の実験結果なので、頻繁に企画された場合の長期的効果は検証されていません。限定商品もやりすぎれば、「またか」と飽きられたり、スノッブ効果が低減したりすることは、経験的にいえるのではないでしょうか。

※取引効用理論

モノ・サービスの売買からもたらされる満足度(全体効用)は、製品を購入したことで得られる価値「獲得効用」と、お得に買えたかを評価した「取引効用」の和になるという理論。ノーベル経済学賞を受賞したテイラーによって提唱された。

全体効用=獲得効用+取引効用=f(等価価格‐支払価格)+f(内的参照価格‐支払価格)
※f(…)は関数であることを示す

参考


阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA

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阿部誠(東京大学経済学部教授)

東京大学大学院経済学研究科・マネジメント専攻でマーケティング・サイエンスを担当。
1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得
2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋大学のマーケティング研究者 第1位に選ばれる。日本マーケティング・サイエンス学会の学会誌編集長(2010年~2018年)を務める。
著書に『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA,2019年 )『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』( KADOKAWA,2017年 )など。

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