広告をつくるときに大事なことはターゲットの心を掴むこと。
今回は心理効果を利用したさまざまな広告テクニックをまとめて紹介します!
広告づくりのちょっとしたヒントにどうぞ
※この記事は、『東大教授が教えるヤバいマーケティング』の内容を一部編集したものです。
(1)ツァイガルニク効果
雑誌の目次に次のような見出しを見たことがあると思います。
1ヵ月で10キロもやせられた理由は、毎日食事の前にを○○○食べたからです。
1ヵ月で10キロもやせられた理由は、食事の前に、ある簡単なことを毎日続けたからでした。
単純に「食事の前にヨーグルトを食べたからでした」と言われるよりも、上記のような見出しのほうが多くの人の興味をそそるのではないでしょうか。
人は自身が達成した事柄より、達成できなかった事柄や中断している事柄の方が記憶に残りやすいことを、その現象を発見した心理学者の名前をとって「ツァイガルニク効果」と呼びます。
1927年に行われたツァイガルニク(Zeigarnik)の実験では、被験者に約20の小タスク(パズルを解く、ビーズを糸に通すなど)をやってもらい、そのうちいくらかのタスクは途中で中断させました。
その後、どのタスクのことを覚えているか聞いたところ、中断させられたタスクは完了したタスクと比べて約2倍、被験者の記憶に残っていました。
1972年には、アメリカの心理学者ヘイムバッハらがツァイガルニク効果を広告に拡張させた実験において、メッセージの初めを聞くと最後まで聞きたくなり、結果そのメッセージは記憶に残りやすかったことを確認しました。
「続きはCMのあと!」「続きはWebで」は典型的な、「続きが気になる」心理を巧みに利用したものです。「中途半端なところで切り上げる」ことにより「物事が気になる」状況が生み出されて、記憶に残りやすくなるのです。
(2)韻踏みの効果
次の広告フレーズを覚えている方も多いのではないでしょうか?
セブンイレブン:「セブンイレブン、いい気分」
味の素:「あしたのもと、AJINOMOTO」
ヤマサ醤油:「ヤマサはうまさ」
これらはいずれも同じ音を持つ単語をつなげてゴロ合わせされた、リズミカルな広告フレーズです。
英語の例では、
ハインツ:“Beans means Heinz”(ビーンズ・ミーンズ・ハインツ)
英語と日本語の両方での例では、
インテル:“Intel Inside”「インテル入ってる」
があります。
これらに共通する点は、発音しやすい、理解しやすい、覚えやすい、好感をもちやすいという、韻踏みの効果を狙ったものです。
(3)スキーマ一致効果
外部刺激である広告は、受け手が頭の中にいだいている既存のイメージ(スキーマ)と不一致であればあるほど驚きをもたらすために、注意のレベルは高くなります。
たとえばソフトバンクのCMで初めて白戸家が登場したとき、お父さんが犬であるため、一瞬「あれっ」と思って、つい見入ってしまった人は少なくないでしょう。
ただし、情報処理の量は適度な不一致のときに最大となる逆U字型になるため、奇をてらいすぎると内容を理解してもらえないことにつながります。
(4)カクテルパーティー効果(選択的知覚)
色々な人が別々の会話をしている喧騒の中で、相手の話だけを聞き取ることができることをカクテルパーティー効果といいます。
たとえば、混雑した役所や病院でも自分の名前が呼ばれるとすぐに分かりますし、電車で居眠りしていても自分の下りる駅がアナウンスされるとなぜか目を覚ますでしょう。これらは、人は意識した対象のみに注意を向ける、選択的知覚能力を持っているからです。
カクテルパーティー効果を狙った広告では、ターゲット視聴者のデモグラフィックス(世代、子供の有無、職業など)、ジオグラフィックス(場所、地名)、サイコグラフィクス(悩み、目標など)といったパーソナルに訴えかけて、選択的知覚を発動させます。
「薄毛に悩む年配女性のシャンプー」
「世田谷区にお住いのあなたに耳寄りな話」
「50代からの自動車保険」
バックグラウンドでテレビをつけていても、自分に関連するキーワードが出てきて「ハッと」させられたことはありませんか?
(5)バーダーマインホフ現象(頻度錯誤=選択的知覚+確証バイアス)
あることを意識し始めたとたん、その事例が自身の周りで急に増えたように感じることをバーダーマインホフ現象、あるいは頻度錯誤と呼びます。
この現象では、まず、最初の接触により興味を持ち始めることによって、対象に対する選択的知覚が発動されます。そして確証バイアスにより、その興味を満たす情報を無意識に探すようになるため、対象の頻度が急に増えたように感じられるのです。
この現象を使ったネットマーケティングの手法が「リターゲティング広告」です。
商品を一度クリックしたりサイトを訪れたり、ショッピングカートに入れた見込み客に対して、同じ広告を何度も表示します。
一度関心を示した見込み客に対して、その商品を何度も見せることによって「最近、この商品はよく見かけるし、人気があるんだ」と感じさせられれば、あとは利用可能性ヒューリスティックによる過大評価と単純接触効果によって購買意欲が自然と高まってきます。
(6)両面提示とその順序効果
メーカーのウェブサイトで評価の高いレビューばかりだと、「どうせ、評価の悪いレビューは削除しているんだろう」と考えて、信憑性を疑いませんか?
いくつかの消費者行動研究でも、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告では、ネガティブ情報が許容できるレベルであれば、むしろ情報の信頼性を高めるため説得の効果が高いことが示されています。
古典的な例は、フォルクスワーゲンのビートルの広告。
”The 1970 VW will stay ugly longer“(1970年型ビートルは、そのみにくさを他車より長く保ちます)
と、スタイルの醜さを逆手にとって、耐久性のよさをアピールしたことがありました。
さらに両面提示の場合、ポジティブ要因とネガティブ要因のどちらを先に提示するべきかという疑問があがります。
順序効果の研究では、受け手がどれだけ広告を詳細に吟味して理解しようとするかによって違うことが確認されました。情報処理の動機が高い場合は初期メッセージに(初頭効果)、逆に動機が低い場合は最終メッセージに(親近性効果)、より強く影響されるのです。
したがって、関心の高い商品・内容の場合は最初にポジティブ情報を、関心の低い商品・内容では最初にネガティブ情報を提示する方が、最終的な評価が高まることが示唆されます。
参考
阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA