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なぜCMは同じ広告を何度も流すのか?―広告の裏に潜む心理のアレコレ

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東京大学経済学部教授の阿部誠氏による寄稿第二弾を公開!

今回は、CMをはじめとした広告の裏側に潜む意図を解説します。
消費者としても広告主としても知っておきたい心理です。

※この記事は、『東大教授が教えるヤバいマーケティング』の内容を一部編集したものです。

 

思い出しやすい商品は、人気が高いと感じる?

短期間に同じCMが何度も流れたり、2回続けて流れたりして、正直飽き飽きした経験もあるのではないでしょうか。
このような広告には、二つの狙いがあります。

一つ目は、過大評価を狙ったものです。

人は物事を判断するときに、想起しやすい情報や簡単に手に入る情報を優先して使う傾向があります。これは利用可能性ヒューリスティックといわれます。(※)

このような単純化された意思決定プロセスを使うと、想起が容易な事例は発生しやすいと判断して、頻度や確率を過大評価してしまいます。
つまり、「馴染みのあるものは頻度が高い」と考えてしまうのです。

例えば、テレビで飛行機事故が大々的に報道されると、しばらくの間「飛行機は危険だから車で移動しよう」と考える人が増加します。
しかし現実には、自動車事故の方が、飛行機が事故を起こす確率よりはるかに高いので、この判断は誤りです。
記憶が鮮明で、新しく、個人的に経験する事象は想起されやすくなります。

したがって利用可能性ヒューリスティックを高めるためには、広告の露出を高めるだけでなく、インパクトがあり、現実的かつ身近な内容が効果的です。

 

もう一つは、繰り返しの出現はその刺激を好ましく思わせるという単純接触効果を狙ってのことです。

これは潜在記憶が頻度に関する知覚に操作・帰属されるために起こります。心理学者のザイアンスが1968年に提言したため、ザイアンス効果とも呼ばれます。

例えば毎週放映されるドラマの主題歌は、曲のよさ以上にヒットする傾向があります。
ただし逆に、頻度が高すぎると好感度が下がるという逆U字型の反応も、広告研究で確認されているため注意が必要です。

東日本大震災のとき、ACジャパンの公共広告ばかりで、その最後のジングルに多くの人が不快感を持ったことは記憶に新しいです。
高頻度のCM露出や選挙運動における候補者名の連呼は、いずれも利用可能性ヒューリスティックによる過大評価と単純接触効果の両方を狙ったものです。

思い出しやすい商品や人は、人気があり(利用可能性ヒューリスティック)、好ましい(単純接触効果)と考えられやすいのです。

 

恐怖をあおる広告の裏事情 ―ネガティビティー・バイアスとは

人はポジティブな情報よりも、ネガティブな情報に注意を向けやすく、そちらの方が記憶に残りやすいものです。これをネガティビティー・バイアスと呼びます。

例えば、ネットのレビューサイトでは、ポジティブな評価よりもネガティブな評価の方を重視する、メディアには、いいニュースより悪いニュースの方が圧倒的に多い(悪いニュースの方が視聴率が取れる)、政治家は競争相手に対してネガティブ広告を多用するなど、例を挙げればキリがありません。

これは人の損失回避性に強く関連しています。

この消費者の特性を利用した恐怖をあおる営業手法も多々見られます。
悪徳リフォーム業者の「お宅の家には不具合があります。すぐに対策をとらないと崩壊しますよ!」や、テレビCMの「まな板には菌がウヨウヨいます。いますぐ○○で除菌を!」は古典的な例です。

脱毛クリニック、薄毛対策、衣服の臭いなどのパーソナルな分野では、自意識過剰効果がネガティビティー・バイアスをさらに増幅します。

これは、実際よりも他人が自分に関心を持っていると自己中心的に考える傾向で、スポットライト効果とも呼ばれます。この現象を利用して、「思っている以上に、他人はあなたの髪や衣服の臭いを気にしていますよ」と増幅された恐怖に焦点を当て、商品・サービスの効用を訴求する広告も見られます。

 

 

ただし、恐怖をかきたてて一方的に商品の購買を迫ることは、シロアリ退治の悪徳業者と同じであり、消費者は売り手に対して悪いイメージを持つでしょう。

恐怖をあおった広告が効果的であるためには、以下の4点を満たすことが重要です。

1.恐怖を与える
2.解決するために消費者がとるべき行動の提案
3.自社製品が恐怖を解消してくれるという信頼の訴求
4.消費者が簡単にその解決策をとれることの訴求

これらを「風呂釜の除菌剤:ブランドA」で考えてみると、以下のようになります。

1.恐怖:雑菌の中での入浴
2.対策:風呂釜を除菌すること
3.信頼:ブランドAは除菌力NO1
4.簡単:ブランドAを風呂釜に入れて湯を沸かすだけ

 

恐怖や対策面では事実のみに言及し、問題解決の主導権はあくまでも消費者に与えるというのが、企業側のとるべきスタンスです。

そして、消費者が合理的に判断すると(つまり簡単に使えて、性能がNO1)、選択肢はおのずと自社製品になる、という流れになっているのが共通点です。

一方、消費者側はネガティビティー・バイアスを避けるために、ネガティブなレビューのみに目を向けたり、そのような評価を理由にそれ以外のポジティブなレビューを軽視したりしてはいけません。
100%完璧な売り手はいませんし、買い手がクレーマーの可能性もあるでしょう。

また、フレーミング効果に影響されないことも重要です。

例えば、

 

①手術の成功率90%
②手術の失敗率10%

 

は同じことですが、②の方が手術のリスクを高く感じてしまいます。

かしこい消費者は、総合的かつ客観的に判断するのです。

 

消費者としてはこのような企業の広告に惑わされず客観的な判断をすることで後悔のない購買行動をとることができます。
一方、企業側もうまくいった企業の事例をそのまま真似するのではなく、今回紹介した心理のように「なぜうまくいったのか」その裏にある心理を理解することで応用が効いてきますよ。

 

※ヒューリスティック
「効率よく情報を処理するために単純化された意思決定プロセス」のこと。主に3つの種類がある。
(1) 利用可能性ヒューリスティック
馴染みのあるもの、記憶に残りやすいものは頻度が高いと判断する。
例>CMの特徴的なジングルの影響で、そのCMがたくさん放映されているような印象をもつ。

(2)代表性ヒューリスティック
あるカテゴリーの典型的な特徴に類似しているかで判断する。
例>相撲の試合で勝つのは、細身の人よりもふくよかな人だと判断する。(本当は細身の人のほうが実力的に上だとしても、力士の典型的な特徴に影響されている)

(3)固着性ヒューリスティック
アンカリンク効果のような、先に提示された数字が基準となってそのあとの判断に影響を受けること。アンカーとなるのは数字だけでなく、価値観や信念、自分の好きなものなど、観念もある。

参考:阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA

参考


阿部誠(2019).『東大教授が教えるヤバいマーケティング』株式会社KADOKAWA

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阿部誠(東京大学経済学部教授)

東京大学大学院経済学研究科・マネジメント専攻でマーケティング・サイエンスを担当。
1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得
2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋大学のマーケティング研究者 第1位に選ばれる。日本マーケティング・サイエンス学会の学会誌編集長(2010年~2018年)を務める。
著書に『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA,2019年 )『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』( KADOKAWA,2017年 )など。

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