四元正弘コラム 消費者心理

【リアリティの法則】で消費者を動かす 「消費者:主人公」「商品:名脇役」の物語がリアリティ強化に有効

投稿日:2018年6月25日 更新日:

心理学で有名な考え方に「プロスペクト理論」がある。理論そのものは文献等で調べていただくとして、マーケティングの観点からは以下の質問が非常に示唆に富むので紹介したい。

Q:以下の二者択一の選択肢が提示されたとします。どちらを選ぶ方が多いでしょうか?
①100万円が確実に手に入る
②コインを投げて表なら200万円、裏なら0円

 

答えは「①が圧倒的に多い」で、プロスペクト理論の説明によく使われる。

しかし、その理論を知らずとも、ご自身に当てはめて考えれば「まぁ、そうだろうなぁ」と納得いくであろう。①も②も期待値は同じ100万円なので、ならばリアリティが感じられる方を選択するのは至極合理的だから、である。

 

しかしマーケティング的に面白いのは、実はこの後の以下のような展開だ。

①を選んだ人に、「②の金額をオークション風に200万円から徐々に上げていきます。気が変わって②を選びたい人は手をあげてくださいね」と提起してみる。すると、どうなると思いますか?

私のこれまでの経験では、だいたい300万円から徐々に手が上がり始めるのだが、500万円でも転向しない人もかなり残る。で、この実験から何を言いたいのかというと、人間にはリアリティに対して、経済合理性をも凌駕する凄い価値を実感している、というこだと。私はそれを「リアリティの法則」と呼んでいる。

 

リアリティを高めるマーケティングとは、一体どのようなものであろうか?

前置きが長くなったが、これが今回の本題だ。

例えば、五感に訴えるのもリアリティを高める代表的なマーケティング施策であり、特に視覚が有効だ。

「急須で淹れたように美味しい」のリアリティを高めるために、濁りを訴求する緑茶飲料が好例だろう。また、「マイナス五歳肌」という印象的なキーワードで、「今年50歳だから、45歳の肌に戻るのね・・・」と今の自分に当てはめて考えさせるやり方も絶妙だ。

このようにリアリティ強化にはいろいろなノウハウがある中で、私が特にお勧めしたいのは、「消費者を投影できる主人公と名脇役としての商品」が登場するエモーショナルな物語を発想する「物語マーケティング」である。

 

そのわかりやすい事例として紹介したいのが、JTの「700度の火を持って、私は人とすれちがっている」という物語仕立てのナマーキャンペーンだ。

「歩きタバコは危険です、止めましょう」と普通に呼びかけるだけでは無視されてしまいがちだが、このように映画のワンシーンのようなストーリー性を持たせることによって、「あぁ、なんて恐ろしいことを私はこれまで平気でしてきたのだろう。周囲の人たちは、特に子供はさぞや怖かったことだろう」と、歩きタバコが危険であることのリアリティを自分ごと化させることに見事に成功している。

 

私の大好きな「実際にあったちょっといい話」

そのほかにも物語マーケティングの有効性を示す、私の大好きな「実際にあったちょっといい話」をぜひともご披露したい。
あるとき、盲目の物乞いの前を伝説の広告マンが通りかかったときのこと。物乞いの前には、お金を入れてもらう缶と、「私は見ることができません」という文言が書かれた板だけが無造作に置かれていた。

 

広告マン:
「目が見えないとはお気の毒に。実は私は魔法使いなのだよ。」

盲目の物乞い:
「だんな、目が見えないからって、悪いご冗談を・・・。でももしも本当なら、見えるようにしてくださいませ。」

広告マン:
「すまんが、魔法使いにも専門分野があって私は治療が得意ではないんだ。その代わり、君がもっとお金を稼げるように、魔法をかけてあげよう。」

広告マンは呪文を唱えながら、「私は見ることができません」の前に「もうすぐ春が来ます。でも」という文をサッと書き足した。そして、広告マンが立ち去ったのち、物乞いの耳にはと小銭が次々に缶に投げ込まれるチャリンチャリンという響きがずっと聞こえ続けたそうな・・・・。



 

みなさんはもう理解しましたよね。「もうすぐ春が来る」という一文が、道行く人を主人公として巻き込む物語を作ったのである。すなわち、「もうすぐ桜など草花が咲き、私はそれを見て楽しめるのに、この盲目の物乞いはそれを楽しめないとはなんと憐れな・・・」と、盲目であることの悲哀をリアリティをもって受け止めたられたわけだ。

物語マーケティングという用語を聞くと、商品や企業・作り手を主人公にする「自分語り」的なストーリー作りを連想する方も少なからずいるだろうし、実際にそのように説く有識者もいる。それはそれで権威や好意の心理作用で評価を高める効果は多少期待できるので一概に否定はしないが、やはり「消費者自身が投影できる物語性」こそがリアリティ強化の本筋だと考えたい。

しかも、消費者と商品・企業との物語を通じて、消費者の共感や絆を自然体に醸成しつつ、将来のブランド化へ誘う王道でもある。ぜひ、お試しあれ!

 

※トップイメージ引用元:
日本たばこ産業株式会社様ホームページ(https://www.jti.co.jp/tobacco/manners/approach/graphic/index.html

 

 

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四元 正弘(四元マーケティングデザイン研究室)

四元マーケティングデザイン研究室 代表
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。 1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。
2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。

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